大阪地方裁判所 平成9年(ワ)7745号 判決 1998年7月03日
原告
木下桂一こと李桂一
被告
相馬実
主文
一 被告は、原告に対し、金九八万九八八一円及びうち金八八万九八八一円に対する平成八年四月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その三を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金三四四万三六〇〇円及びうち金三一四万三六〇〇円に対する平成八年四月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 (本件事故)
(一) 日時 平成八年四月一〇日午後三時二五分ころ
(二) 場所 大阪市平野区加美北一丁目三番一〇号先交差点
(三) 被告車両 被告運転の普通乗用自動車(なにわ四五そ一〇七九)
(四) 原告車両 原告運転の普通乗用自動車(なにわ三五ろ七六二)
(五) 態様 前記信号機の設置されていない十字路交差点において、原告車両が北から南に向けて道路両側に駐車中の車両を避けるべく道路中央寄りを進行し、同交差点に差し掛かったところ、折から被告車両が西から東に向けて、一時停止標識があるにもかかわらず、制限速度(時速二〇キロメートル)を大幅に超過し、左右の確認を怠ったまま同交差点に進入してきたため、原告車両前部と被告車両左側部が接触し、原告がルーフとフロントガラスの継ぎ目あたりに頭を強打し負傷した。
2 (責任)
被告は原告に対し、民法七〇九条により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。
3 (傷害)
原告は、本件事故により、頸部捻挫、頭部外傷Ⅰ型の傷害を負い、畠山整形外科において、平成八年四月一〇日から同年一一月二五日まで通院治療を受けた(実通院日数一六五日)。
4 (損害) 三三一万四八〇〇円
(一) 治療費 八〇万〇二三八円
畠山整形外科における全治療費であり、被告側において支払済みである。
(二) 通院交通費 一三万二〇〇〇円
日額800円×165日=13万2000円
(三) 休業損害 二〇一万一六〇〇円
原告は、本件事故当時、携帯電話機バッテリー、ゲーム機のカートリッジケース等プラスティックの射出成型を業務としている木下ブロー工業所を経営していたところ、本件事故による負傷ため、事故後の三か月は男子三六歳の平均賃金月額四二万八〇〇〇円の割合の、その後の三か月は右月額の五割の割合の、その後の一か月は右月額の二割の休業損害が生じた。
右によると原告の休業損害は、次の計算式のとおり二〇一万一六〇〇円となる。
42万8000円×(3か月+3か月×0.5+1か月×0.2)=201万1600円
なお、原告は、本件事故前、業務を遂行するためにアルバイトを五人雇っており、同人らが製品の加工・検査を担当し、原告は、主に主要な顧客との加工製品受注並びに配送関係をしていたものであるが、本件事故による傷害のため、平成八年一〇月末までは車を運転することができず、その間加工製品の配達のためやむなく代替運転手を右期間雇用し、その給与として合計一六八万円を支払ったという事情があり、一次的には前記二〇一万一六〇〇円の休業損害を請求するが、右が認められない場合は、右代替労働費用一六八万円を休業損害として請求する。
(四) 傷害慰謝料 一〇〇万円
(五) 弁護士費用 三〇万円
以上合計四二四万三八三八円
よって、原告は被告に対し、不法行為による損害賠償として、既払金八〇万〇二三八円を控除した残額金三四四万三六〇〇円及びこれに対する本件事故の日である平成八年四月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)ないし(四)は認める。
同1(五)のうち、原告車両が道路両側の駐車車両を避けて進行したこと、被告車両が制限速度を大幅に超過していたことは否認し、原告がルーフとフロントガラスの継ぎ目くらいに頭を強打したことは知らず、その余は認める。
2 同2は認める。
3 同3は認める。
4 同4(一)は認め、(二)ないし(五)は否認する。
(一) 通院交通費
原告は、本件事故前から畠山整形外科に腰痛で通院中で、本件事故後はその腰痛治療も兼ねての通院でもあり、本件事故がなくても通院しているのだから、そのための交通費は損害ではない。
また、原告の仕事場の木下ブローは大阪市平野区加美北三の一〇の一九にあり、これは畠山整形外科(加美北三の一〇の一五)の隣である。
交通費は全くかからない。
(二) 休業損害
(1) 原告のむち打ち症は、何らの他覚的所見のない軽度のもので、仕事ができなくなるようなものではない。
医師も原告は働いていると思っているし、被告側保険会社に原告は連絡先として自宅ではなく仕事場の電話番号を告げていて、原告はいつでも仕事場にいた。
(2) 原告は、運転ができなくて代替運転手を雇ったというが、本件事故後被告側は原告にレンタカーを提供している(平成八年四月一二日から同月二三日まで)。
これについて原告は、被告加入の保険会社に対し、
<1> 普通乗用自動車の運転はできるが、トラック(一トントラック)の運転はできない。
<2> そのため、運送会社から本件事故の翌日から平成八年一〇月末まで、月決め二五万円で運転手の派遣を受けた(今回主張の雇用とは違う。)からそれを認めよと、本件事故から六か月後の平成八年一〇月になって言ってきた。
しかし、普通乗用自動車の運転ができて、一トン車の運転ができないはずはないし、原告は、もともと業務のため運転手を雇っており(原告の話では前の運転手は平成七年一二月までいたが辞めたということだった。)、業務多忙のとき臨時に雇い、本件事故後もあるいは運転手を雇ったかもしれないが、それは本件事故による原告の就労不能が理由ではなく、原告の業務の必要上からであると思われる。
三 抗弁
1 (過失相殺)
本件交差点は、被告側道路に一時停止の標識があった。
被告は、一時停止をせずに交差点に進入した過失がある。
一方、原告も交差点進入に際しては、減速するなど避譲措置をとるべき注意義務があるところ、これを怠り、漫然と交差点に進入してきた過失がある。
両車とも同程度の速度であり、原則どおり原告二割、被告八割の過失割合が相当である。
2 (寄与度減額)
原告は、本件事故前から、腰痛による治療を受けており、これも寄与しているから、相当の減額をすべきである。
3 (損害填補) 八〇万〇二三八円
原告は被告に対し、本件事故の損害賠償の内金として、八〇万〇二三八円を支払った。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1、2は争う。
2 同3は認める。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1(本件事故)
1 (一) ないし(四)は当事者間に争いがない。
2 証拠(乙九ないし一一)によれば、次の事実が認められる(争いのない事実を含む。)。
(一) 本件事故現場は、別紙交通事故現場見取図記載のとおり、南北方向の道路(中央線の設けられている二車線道路)と東西方向の道路(交差点の東側は東行一方通行道路)がほぼ直角に交差する交差点であり、東西道路の本件交差点手前には一時停止の規制がなされており(指定最高速度は、南北、東西両道路とも時速二〇キロメートル)、南北道路、東西道路とも本件交差点における左右の見通しは不良であった。
(二) 被告は被告車両を運転して、本件事故現場の東西道路を西から東に向かい、時速約二〇キロメートルで走行し、本件交差点手前で一時停止することも減速することもなく、本件交差点に進入し、南北道路を北から南へ向かい進行してきた原告車両の右前部と被告車両の左側後部とが衝突した。
(三) 原告は原告車両を運転して、本件事故現場の南北道路を北から南に向かい時速約二〇キロメートルで走行し、前記のとおり被告車両と衝突した。
以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
なお、原告、被告各本人尋問の結果中には、それぞれ相手方車両の速度について制限速度を大幅に超えていた旨供述するのであるが、これを裏付けるに足りる証拠はいずれもない。
二 請求原因2(責任)は当事者間に争いがない。
三 請求原因3(傷害)は当事者間に争いがない。
四 請求原因4(損害)
1 治療費 八〇万〇二三八円
当事者間に争いがない。
2 通院交通費
証拠(原告本人、乙一ないし八の各1、2、一四)によれば、原告は、本件事故後も経営する木下ブロー工業所での仕事を継続しており、本件事故による負傷治療のために通院した医療法人三恵会畠山整形外科は右木下ブロー工業所の隣に所在することが認められるから、原告の通院交通費の主張は理由がない。
3 休業損害 一六八万円
原告の本件事故による負傷治療のために、収入の減額を生じたことを認めるに足りる証拠はないところであるが、証拠(原告本人、甲四の1ないし8の各1、2)によれば、原告は、本件事故による負傷のために原材料及び製品の運送作業を行うことができなかったため、和光商店こと金井信徳に対し、平成八年四月一一日から同年一〇月三一日まで右の運送作業を依頼し、合計一六八万円を支払ったことが認められるから、右は、本件事故による原告の負傷による損害ということができる。
4 傷害慰謝料 九〇万円
前記争いのない傷害の内容、治療状況(請求原因3)からすると、原告の傷害慰謝料は九〇万円とするのが相当である。
5 以上合計三三八万〇二三八円
五 抗弁1(過失相殺)
前記認定の本件事故の態様によれば、原告にも東西道路の動静についての注意が不足していた過失があるものというべきであるから、二割の過失相殺をすべきである。
六 抗弁2(寄与度減額)
1 証拠(乙一六の1、2)によれば、原告は、平成七年一二月八日から、臀部打撲傷、尾骨骨折、右膝内障、腰椎椎間板症で医療法人三恵会畠山整形外科へ通院を開始していることが認められ、右症状の内容からして、前記損害の発生について、右傷病が寄与していることは明らかであり、その寄与の割合は三割と認めるのが相当である。
2 そこで、過失相殺と寄与度減額の合計五割を控除すると、前記損害額合計三三八万〇二三八円から控除すると一六九万〇一一九円となる。
七 抗弁3(損害填補)(八〇万〇二三八円の支払)は当事者間に争いがないから、これを、前記一六九万〇一一九円から控除すると、八八万九八八一円となる。
八 弁護士費用(請求原因4(五))
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、一〇万円と認めるのが相当である。
九 よって、原告の請求は、金九八万九八八一円及びこれから弁護士費用を除く金八八万九八八一円に対する本件事故の日である平成八年四月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条を、仮執行宣言について同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉波佳希)
交通事故現場見取図